『時が滲む朝』

トップ > 日記

読書日記

2020年08月28日

『時が滲む朝』 楊逸 文春文庫 540円+税 

著者は在日中国人。この著で芥川賞を受賞(2008年)。日本語を母国語としない作家としては初めての受賞。
四川の高度高原地方出身の二人の青年が地方大学に進学し、全く新しい世界に触れながら反体制の中国民主化運動に加わっていき、北京の天安門事件(1989年)に行きつく。「我愛中国」をこころしても逮捕退学を余儀なくされ、それぞれの道を歩む。そのうちの一人浩園は、中国残留孤児だった婦人の娘梅が日本に帰っても日本語が話せず彼の実家の近くに居たので中国に戻って女学校で学んでいたが、その梅と結婚して来日、日本で中国民主化の活動を続け、北京オリンピック反対運動などしながら苦労して働くこととなる。
アメリカやフランスへ亡命した師や友、中国に留まっている友らや、日本で知り合った中国人たちと、インターネットが普及し始めて交流を繋いでいく。感情豊かに恋を歌うテレサ・テンの歌声や尾崎豊の"I love you"にこころを強烈に揺さぶられ本能や自由に目覚ながら
さらりとストーリーを追っているが、若者たちが苦悩する現在の香港問題などを照らし合わせてみて、深く考えさせられる。あとがきで言う、著者の同時代体験が映されていよう、1989年著者は25歳だったと。そして中国の歴史では赤でもなく黒でもない灰色の無名な小人物つまり庶民が権力をもつ偉人に勝手に弄ばれふみにじられていく、と。
 

[前の日へのリンク]← 
→[次の日へのリンク]

NewChibaProject