『未完の女』

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読書日記

2011年08月24日

『未完の女』 リリアン・ヘルマン 平凡社 1800円

ダシール・ハメットの『デイン家の呪い』を読んで、ハメットと30年間共に過ごしたリリアン・ヘルマンのことに思いが到った。かつて読んだ本を本棚から引っ張り出した。読み始めると、たまらなく奥が深い。
30年ほど前に読んだ『未完の女』、その頃の私にはまだ読みこなせなかったのか。
リリアン・ヘルマンの自伝である。
時系列に書かれているのでなく、あることを思いだしそれから次のことに移ってと、上等な戯曲・随筆風に綴られている。
流石、芝居やハリウッド映画の台本で大当たりしただけのことはある。
オードーリ・ヘプハーンの出ていた「噂の二人」やジェーン・フォンダの「ジュリア」などなど。
ユダヤ人の血筋を引き、米国南部で複雑な育ち方をし、劇作家として名声をはす。
ハーバート大学で講義も受け持っていた。
社会主義者で、スペイン内戦を取材する。第二次大戦中のソ連に作家連盟の招待で行き、望まずにしてソ連のドイツ戦最前線に連れて行かれたり、ポーランドのアウシュビッツを視察したりする。
当時の、ハメットも含めて、ヘミングウェイ、フィッツジェラルドといった作家やウィリアム・ワイラーといった映画監督らとの交流は深く凄いが(例えば酒にふけたり互いに好いたり嫌ったり)、実に冷静で覚めて書かれている。
戦後の"赤狩り"旋風に巻き込まれ、ハメットは投獄される。
そして彼が肺がんで67歳に亡くなるまで側にいた、そのハメットを愛してやまない。
"ーあの小説のなかの、ばかな女、あの女悪党もやはりきみなんだよ、とハメットにいわれた。いまになっては、あれは冗談だったかも知れないが、当時のわたしには苦痛であった。あのひとによく思われたくて一生懸命だったから。彼に対しては、たいていのひとがそうであった。ー"
"わたしには自分の考える真実がどういうものか、わかった験しがなく、望んでいた分別も身につかないできた。つまり、あまりにも多くの時間を無駄に費やしたせいで、自分の中のあまりにも多くのものを未完のままで残したといいたいのである。とはいうものの…"で結んでいる。
この原本は1969年、リリアン・ヘルマン64歳の時に書かれた。
いい女である。  

 

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