『ビルマの竪琴』

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読書日記

2013年11月22日

『ビルマの竪琴』 竹山道雄 新潮文庫 430円+税

この度ビルマ旅行をするので改めて買って読んだ。古い本があったはずだが。

この小説の作者竹山道雄は、戦争に行ったこともビルマに行ったこともない一高の教師、後に東大教授となるドイツ文学者、評論家だ。一高の教師という立場で、昭和18年(1943年)10月から学徒出陣を見送った。
余談だが、それまでは大学や高専の学生・生徒たちは20歳になっても徴兵猶予の特典があった。が、だんだん兵員不足が深刻化して、理科系、教員養成系以外のものの特典を撤廃して入隊させた。これが学徒出陣。19年からは年齢が19歳に引き下げられた。こうした学徒兵は戦死した者も多く、その戦没学徒の手記を集めたものが『きけわだつみのこえ』である。
作者は、こうした若者を無駄な死に追いやった社会を鋭く批判する文明評論家でもあった。昭和15年に雑誌『思想』に既に「独逸(ドイツ)、新しき中世?」を書きナチス・ドイツの非をはっきりと指摘したし、東京裁判傍聴記の形をとった著作集に収められている「ハイド氏の裁判」では、近代文明は裕福な家の客間、「すなわち持てる国」においては驚嘆すべき業績をあげ高潔な品位をたもってきたが、貧民窟をさまようとき、つまり「持たざる国」においては醜悪なる姿をあらわす、と批評。

こうした世相のの中、公に反戦小説を書けるはずもなく、依頼を受けて、少女向けの童話雑誌『赤とんぼ』童話として『ビルマの竪琴』を連載したのだった。
童話であるから、穏和に優しい語り口で書かれている。しかし、言っている言葉は奥が深く重い。
主人公水島の、ビルマ僧に姿を換えて、やむにやまれずビルマに留まり、山と積まれた日本兵士の亡骸を供養する姿は、その深い思いが当時の少女たちにも届いたであろう。少女たちのこころを暖めたであろう。父や兄の気持ちが分かったであろう。
発刊は敗戦直後の昭和22年。日本社会が乱れ、戦争をした者は誰でも悪として、誰一人戦死した遺骨を現地で供養しようなどとはまだ思えない時だった。

今、こんなにいい童話があるかしら、ね。

  

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