『伊勢物語』

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読書日記

2013年08月11日

酷暑。
クーラーのない九十九里浜の苫屋では、戸を開け放ち、扇風機をフル稼働して、32℃を凌いでいる。
空気は清々しく、都会の澱んだ風ではないので、何とか凌げる。
そんな中で、読みかけの『伊勢物語』の世界にひたった。

『伊勢物語』 永井和子訳・注 笠間文庫 980円+税

第四五段は、男に恋心を抱いていた娘が打ち明けることもできずに死んでしまう、いまはの際に両親に打ち明け、それを両親が男に伝える。時はみな月つごもり。つまり6月末日。(男は)いと暑きころほひに、宵はあそびをりて、夜ふけてややすずしき風ふきけり。蛍たかくとびあがる。この男、見ふせて、"ゆく蛍雲のうへまでいぬべくは秋風ふくと雁に告げこせ"
とある。
陰暦だから今の7月末頃、ちょうど今頃、1000年前頃の当時の暑さは風流なものだったであろうか。活動は夜のようであるな。

伊勢物語は、ストーリーがあるわけでなし作者がいるわけでない。編者も定かでない。
「歌」で構成される短篇一二五段からなっていて、「歌」は209首ある。
「歌物語」である。
主人公「男」は在原業平とほのめかされる。
"むかし、をとこ、初冠(ういかんむり)して、奈良の京、春日の里に、しるよしして、狩にいにけり。" で始まる。
殆どの段が、"むかし、をとこ、云々"と始り、能の詞章などでも在原業平を「むかしをとこ」と称している。

業平は、天皇の御子ながら劣勢で、高貴な女性と関係をもち、(平民の女とも分け隔てなく多く関係をもつところから恋多き男とされる)、京にいられず、東国へ下り、伊勢・尾張を海岸伝いにいったり、三河の国八橋、信濃の国によったり、武蔵の国、そして陸奥の国まで逍遙する。
そこでもまたさまざまな女との関係が生ずる。まめ男と言われる所以である。
" 唐衣きつつ馴れにしつましあればはるばる来ぬる旅をしぞ思ふ " ( か・き・つ・ば・たという五文字を句の頭においた八橋での歌)
" 信濃なる浅間の嶽にたつ煙をちこち人の見やはとがめぬ "
" 時しらぬ山は富士の嶺いつとてか鹿子まだらに雪の降るらむ "
" 名にしおはばいざこと問わむ都鳥わが思ふ人はありやなしやと "

時系列や道中の順などは踏まえていない。まちまちである。
それぞれの段に説明文というか経緯が書かれていて、歌がよまれる。
当時の人々は歌でこころを通わせる。歌で微妙な心持ちを表わす。
業平は敗者ではあるが、宮廷人や庶民たちの大らかな開け広げの恋や愛の、ても秘めたる切ない恋の一途さなどなど、風情な雅を感じさせる。

親王に仕えて、狩りにでかけるが、狩りよりは酒宴で歌をよむ。
" 世の中に絶えて桜のなかりせば春の心はのどけからまし "

また、" ちはやぶる神代もきかず龍田川 からくれないに水くくるとは "

最後は、一二五段で、
むかし、をとこ、わづらいて、心地死ぬべくおぼえければ、
" つひにゆく道とはかねて聞きしかどきのふけふとは思はざりしを "  で終わる。

この本は、見開き右ぺーじに原文と脚注が、左ページがそれに対応して現代語訳が載せられた編集になっていて、実に分かり易く読める。
日本人がこのような美しい歌物語りのこころをもっていることを誇りに思った次第。

 

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