『黄金虫』『盗まれた手紙』など

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読書日記

2014年10月28日

『モルグ街の殺人・黄金虫 ポー短編集U ミステリ篇』 エドガー・アラン・ポー 新潮文庫 490円+税

この一冊に収められている『モルグ街の殺人』は既にリポートした。
その後、他の5編も面白く読んだので記す。

『盗まれた手紙』
デュパンに旧知のパリ警視総監から捜査依頼が入る。
悪徳高いD大臣が、宮殿の閨房から秘密の手紙を彼女の目の前で盗んでしまう。その手紙が陰謀に使われた形跡はまだないので、極秘里に奪い返して欲しいとの依頼。
デュパンが推理を働かせて奪還、事なきにいたる。D氏にはウィーンでデュパンは酷い仕打ちにあっていて、小気味いい仕返しが出来たデュパンだった。

『群衆の人』
わたしはロンドンのDホテルで病後の療養で快復中。日暮れ時、額をガラス窓に押しつけるように外の街路の往来を群衆たちを構図別に味わい深く観察している。帰宅を急ぐ勤め人、賭博師、etc. 
と、興味をかきたてられる一人の男を発見。65〜70歳のよぼよぼの老人の顔でとてつもない独特の表情が浮かんでいた。画家が自分の手になる悪魔像以上に気に入りそうな、貪欲さ、悪意性、残虐性、歓喜、絶望などをもつ顔。どんな凄まじい歴史がこの男の胸に書き込まれているのか。
一晩中、群を求めて彷徨い続けるこの男のあとを私もつける。昼頃Dホテル前に立ち戻り、喧騒の中でこの男は喜び、またもや静かな夜になると群を求めて歩き回る。
といったもの。つまりこの男こそは群衆そのものて゜、一人きりではいられないものなのだ。
推理とは異なった、実存主義的、不条理風の考えさせられるおもしろい小作品だ。

『おまえが犯人だ』
ここまでポーを読んでくると、これはブラックユーモアが隠し味として効いていて犯人はわかる。題名は、旧約聖書に出てくる、ナタンがダビデ王を指して「その男はあなただ」と叫ぶところからきている。
主人公のグッドフェロウ氏といい、町の名前をラトルボロ(能天気という意)というのもおかしい。

『ホップフロッグ』
まるでグリム童話のようだ。
小人の国から拉致されてきて、国王や大臣に道化として仕えている小人の知恵者二人。
まんまとその知恵を働かせて国王たちをつるし上げて殺す、復讐物。

『黄金虫』
これは暗号小説である。最後に分かるのだが、暗号の解き方の初歩が分かって面白い。
米国サウスカロライナ州チャールストン近くの離れ小島サリバン島が舞台。周囲を砂浜で囲まれフトモモ科の低木が生い茂る、みすぼらしい骨組みばかりになった建物があったりする、さらに奥地に主人公ルグランは小屋を建てて、家の没落前から奴隷だった老黒人の、解放後も解放されたくなく忠実についている侍僕と珍種の昆虫採集などをして隠遁生活をしている。
それが、わたしが訪ねた晩、珍しい「黄金虫」を発見したと、描いて見せたところから変に狂ったようになる。
ルグランの謎解きが凄い。

ルグランの謎解きというか、ポーの幾多面に渡る物書きの展開がもの凄いのだ。
常につぎつぎとヒラメキ、深掘りしているのだな。
ポーとの知恵比べがまた愉しい。

  

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