『国家と教養』

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読書日記

2019年05月14日

『国家と教養』 藤原正彦 新潮新書 740円+税

教養なき国民が国を亡ぼす 教養こそが「大局観」を磨く などなど。国民の目線で政治を行っては誤るとは、今も昔も人気先行の政治は衆愚政治である事を示す。日本の教養層は政治音痴だと。
教養主義のチャンピオンドイツがヒットラーを生んだ理由、イギリス貴族のバランス感覚とユーモアのセンスなど。
教養とは何かを、ギリシャ時代からの歴史をひもとき、西洋と日本の違いを軽快に語っている。
日本人は日本の大衆文学をもっと読めと。本をもっと読めと。一冊の本には無限の教養が詰まっている。それから想像を逞しくせよと。
現在に求められている教養の四本柱は、@長い歴史をもつ文学や哲学などの「人文教養」 A政治、経済、歴史などの「社会教養」 B自然科学や統計などを含めた「科学教養」これらは常識的なもの。 
 そして、Cそれらを書斎の死んだ知識としないため、生を吹き込むこと、すなわち情緒とか形を修得出来る読書、登山、旅などの「大衆文化教養」。

教養教育に関して、かつて私は国立大学の教養教育に関する現状調査のある委員会で委員をつとめたことがある。20年以上前の事である。当時ですら、教養学部や教養課程という名称を置いている大学は一大学しかなかった。大学も人気を重視せざるを得ず職業専門校に近くなりはじめていたのだった。

著者は数学者である。前に読んだ岡潔にしても数学者である。数学者の文化や文明、歴史、社会への洞察眼、分析力にいたく感じ入るものがある。我が友人で大学で数学を専攻し中学の数学教師になった女性曰く、高校までで習った数学と大学で学ぶ数学は全く違うもの。高校までで学ぶ算術、数式などは思考するまたは哲学を展開するための単なる技法なの、と。成程、世の中探求すべき世界は計り知れなく広く深いのだな。ただ単に考えているだけでは世界の謎は解けないのだな、きっと。
そして著者は言わずと知れた『国家の品格』の著者。私はベストセラーというものには関心が失せる。従って読んでいない。彼の筆の運びは軽やかで実に聡明だ。そしてユーモアたっぷりに味付けする。教養が身近に感じられる。

 

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