『リーダーと電力』

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読書日記

2011年07月24日

『リーダーと電力』 井上琢郎著 財界研究所 1500円+税

副題に、"サッチャー、松永安左エ衛門…… 電力の本質を見抜いた人たち"とある。

著者は東京電力OB。
政経社発行月刊誌「政経人」に、「電力界の歴史 電力の思い出の一滴」を2010年4月号から連載していた。私もこれをいただき、電力界の日本社会を支えた偉大な歴史を大いに学び直していた。
そして2011年3月11日の東日本大震災。
東電福島第一原子力発電所も未曾有の被害にあい、近隣広くに放射能汚染という第二次被害を及ぼしてしまった。
著者の「政経人」執筆はそれで終了したが、今回新たに書き下ろしというか「政経人」を大幅に加筆して本著にまとめられたようだ。

明治維新からまだ日が浅い1883(明治16年)年、有限会社東京電燈会社(現東京電力の前身)が日本で初の電気事業者として設立許可を受け、民営で自由競争自主協調をはかってスタートしてから、戦時中軍国家管理下に置かれ、敗戦後昭和26年に現在の電力会社体制にいたるまでを、その時々の有能な政治家、官僚、事業家、リーダーたちの構想・決断・施策などエピソードも交えながら、実体験も踏まえて、感心させて読ませてくれる。
東京電燈会社が設立したのは欧米に遅れることたった2年だった。この電力エネルギーがその後の日本社会発展を大きく可能としたのだった。
著者は昭和28年入社のようだから、実体験談はそれ以降のことで、以前の歴史は膨大な読書、資料とメモ、伝聞をきめ細かく展開している。お人柄がそうさせるのだが、上司の話をよく記憶し、知人、人的交流の広さからの貴重な情報収集に驚嘆する。それが重要な資料ともなっていて、よくぞご本にまとめて下さったと、学ぶ側からは感謝したい。

電力民営化の鬼であった松永安左エ衞門氏のところでは、国家管理がいかに無理であったか考えさせられる。
サッチャー氏のところでは、東電の設立初代ロンドン事務所所長としてロンドンに駐在していたときの実体験が語られる。
英国の電力の主力燃料は石炭。石炭の労働組合は強い。ゼネストをする。長期化すれば大停電がおきかねない。まだ早期政権とはいえ強気のサッチャーさんの首が危ない。そこで著者も知人の英国中央電力公社総裁が万作を用いて大停電を回避、政府の勝利となったという。
このロンドン駐在にともない、日英の文化の違い、言葉の持つ意味などに気づかれ、興味のつきない逸話も多く、それも読ませる本となっている所以。

今回の福島第一原子力発電所の事故に関して、すでにOBの身でいっさい東電からは情報を得ていない個人の考えとして、先ずお詫びし、述べ質問しているところは深く考えさせられる。
東京電力はこれまで社会のためになくてはならない電力を供給するため努力してきた。原子力発電に関しては一部反対する人々もいるが、国の、国民の理解協力を得て、信頼を得て展開してきた。
ここへきて1000年に一度と言われる津波被害で崩壊して、マスコミなどから日本一悪い企業といわれ袋だたきにあっているが、本当にそうか。
多くは語っていないが、こころから考え悲しんでいることにこちらも身がつまされる思いがした。

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