『思い出袋』

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読書日記

2015年11月27日

『思い出袋』 鶴見俊輔 岩波新書 760円+税

今年7月、93歳で亡くなった著者。いまではいなくなった物事の洞察力に優れた哲学者だった。たぶん知力と心持ちが生まれつき優れていたのだろう。
幼少期を不良で通し、アメリカの学校に追放転校? ハーバード大学で哲学を学んでいた時、日米開戦。卒業証明を授かり、政治家の家に育ったのでこの戦に負けると知りつつ、自分の意思で帰国。戦中は海軍の下級軍属としてドイツ語通訳や米国ラジオ放送を聞き記事にする仕事に従事。
敗戦後は、徹底したリベラルを通し、ベ平連を起こしたり、戦後思想史に貴重な軌跡を記した。アメリカには二度と足を入れず。 
こうしたことがこの本には書かれている。80歳から7年間にわたって『図書』に連載 した「一月一語」を集成したもの。
記憶力、言葉使いが並み外れて優れている。幼少の頃の記憶。二二五事件、阿部さだ事件などが基本的な意識に置かれている。遊学中の下宿先での思い出は上等な交流関係。徹底した平和主義者だ。
"戦中の横浜事件、共産党再建の計画という事実無根の犯罪を作って、拷問と獄死をもたらした戦中の裁判は、不問に付されたまま戦後64年が過ぎた。戦時の判決の不当を、私たち日本人は背負い続けている。この根もとにある罪は、戦後日本の歴史の変わらない特徴である。"
とか、"米国大統領は、すでに日本が戦力を失っていることを高度航空撮影で知りながら、もっている二発の原子爆弾を、幕僚長の反対を押し切って日本におとした。このことについて、日本の普通人と米国の普通人は、どういう会話をかわすか。
実際に原爆を落としたアメリカ人の男は、テレビで見ると、「真珠湾の奇襲」と言い、それですむと思っている。
日本人はなんと言うか。『二重被爆』というドキュメンタリーの中で、広島で原爆を受け、その後、故郷の長崎に戻って、そこで二発目の原爆を受けた岩永章は、60年後に振り返って、「もてあそばれたような気がする」と言う。
現在の米国大統領バラク・オバマはなんと言うか。"
とか、"オバマは、米国を、建国以降しばらくそうだった、「戦争しないでやっていける国」に戻せるだろうか。"
"ヴェトナム戦争は、アメリカがアメリカと戦って敗れた戦争である。このことをアメリカ国民が理解するのはいつか。"
などなど。全てこころに残る。

 

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