『大穴』

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読書日記

2012年04月30日

『大穴』 ディック・フランシス ハヤカワ文庫 860円+税

ディック・フランシスの小説は軽い読み物と思いきや、否読み応え充分である。
イギリスの探偵犯罪小説の大方同様に、ストーリー展開は勿論だが枝葉の部分が多岐にわたり骨太で、物事の蘊蓄も深く、表現力に優れている。
前回の『再起』で魅せられ、主人公がシッド・ハレーもの4作をアマゾンで買った。
その第一作がこの『大穴』である。1965年の著。
超一流の騎手だったシッドがレース中の事故で手をずたずたに負傷。選手生命を絶たれ、探偵社の調査員に雇われ競馬界に蠢く陰謀に立ち向かうのだが…。
花火が飛んできて顔半面火傷で引きつっていてスカーフや髪や顔の向きで隠している女性と、シッドも負傷して使い物にならない左手を常にポケットに入れて隠しているが、二人でそれらを隠さず表に出そうと約束して実行する件辺りは、苦悩と優しさを切実に感じさせる。
その左手を拷問にかけられ、恐怖にかられる時、ナチや日本軍の拷問に耐え抜いたり、秘密を守ったまま死んでいった人々のことを考え、アルジェリアでは想像もつかないことが行われ、鉄のカーテンの向こうは洗脳は序の口、アフリカの獄舎でどんなことが行われているか、考えも及ばないとする。
それから半世紀近く経った今日まで、世界中で同様なことが繰り返されてきたのではあるまいか。恐ろしい。
とにかく面白い。読ませる。病みつきだ。 

 

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