『作家的覚書』

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読書日記

2017年07月11日

『作家的覚書』 高村薫 岩波新書 780円+税 

まだ7月半ばに入ったばかりというのに、九州方面では大雨続き、関東方面では空梅雨の猛暑、地球の中東方面では50℃近い激暑だ。まさにこれは地球的規模の異変であり、地球温暖化やオゾン層破壊の結果である。人間が身勝手に便利で快適な社会を営んでいるつけが我が身に襲っているのである。
私は夏が近づくと、大げさに言えば、国のあり方、我のあり方、来し方行く末を、知らず知らずに考えている時が多い。原爆投下がなされた日があり、終戦の日があり、お盆があるからか。

奇しくも本日7/11日付けで、「テロ等準備罪」いわゆる「共謀罪」を新設した「改正組織犯罪処罰法」が施行された。

この一冊は作家の社会時評である。
この本で、著者の静かな深い考え、幅ひろい洞察、鋭い問題提起をもらった気がした。
憲法問題についての指摘で考えさせられる指摘。
<この秋、集団的自衛権行使の道を開く安保関連法が成立した(2015年)。戦後70年のこの国の歩みを根底から転換する法律が、国会での中身ある議論もなく、国民に十分理解されていないことを首相自ら認めながら、与党議員の数だけで通って行った。…日本でもついに「戦後」は終わった
……片やついに自ら(平和)憲法を踏み越えてしまって豊かな先進国(日本)、片や憲法以前に国そのものが崩壊しかけているシリアや、初めから分断されてしまっているクルド人自治区。
…… 国際社会の正義が正しく働いていれば中東の戦火を止めることもできようが、中東はむしろ欧米(日本も組しそう)の深謀遠慮の犠牲者で、国際社会の協調性が失われなわれている。
……5月の憲法記念日の世論調査で、日本人の間に立憲主義の考え方は浸透していないと、さらに経済に比べて憲法についての関心が有権者の間でおそろしく低いと。従って、内閣が憲法九十六条の改正を掲げていることにも有権者の反応は鈍いのも頷ける。有権者の無知と無関心を、政治家が利用しているということで、ぞっとした。
……(あとがきで) 旧憲法明治以来、立憲主義が広く国民の意識に根付くことのなかったこの国で、この70年間、国民は思考停止を選び不幸にも憲法を左右のイデオロギーの草刈り場にしてきた。「象徴」、「九条」といった言葉だけが独り歩きしてきた。憲法は憲法としての本来の機能をほとんど停止させ、今や一内閣の閣議決定一つで簡単に反故にされるようにものになり下がった

ヒロシマについて。
……オバマ大統領が広島原爆慰霊碑の前で核廃絶への希望を語るーーそれ自体、不思議な光景だった。が、それ以上に平和公園の外でその手に歓迎の星条旗を振る市民たち、テレビの中継映像。もっと言えば、何故、あの日広島には怒りの声一つなかったのか。何故、誰一人としてアメリカの原爆投下を避難しなかったのか。

などなど。作家は、特にドキュメンタリー作家は、歴史や時事に鋭く通じていなければなるまい。彼女の書く小説はまだ読んだことがなかったが、大いに期待したい。

 

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