『生と死、ーその非凡なる平凡』

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読書日記

2015年07月03日

『生と死、ーその非凡なる平凡』 西部邁 新潮社 1900円+税

著者独特の語り口で非凡なる平凡を綴っている。
つまり、「私的体験の随筆風にして(いくぶん)哲学風の考察を書き綴る」というもの。多分、哲学というのはそんなものだろう。例えばヒルティの『眠られぬ夜のために』などがある。
吃音で苦しんだ幼少時代の北海道、東大生となるも全学連のリーダーとなり、刑務所暮らし、裁判を抱えながらの新婚生活、東大の教職に就き、辞め、評論家として過ごす。
非凡な人生を歩んでいる。しかも強烈に。そしてそれを平易に書いているからいい。
読んでいての驚きは、そうした彼が家族愛そして郷土愛が深く強いということだ。
最後に、自身も癌など幾多の病を抱えながら、癌と闘う夫人を看病し看取る、そこで互いに生きていく仕草がいかに非凡なことか、その非凡なることを彼なりの深い考察により、哲学的に平凡と受け止める。
彼にも寺出身の家族との交わり、麻薬、獄中暮らし、結婚と様々な体験で生は分かるが死が分からない。譫妄のはじまっている妻につききりで看取る、同郷の志で実は彼の精神的支えであり、郷里の化身でもあった妻を、今や抱擁しかしてやれない、そんな妻の死をなんとか気丈に論理的に分析している。そして、追憶は続く。
彼の書くものは、われわれが無意識に日常感じ行動している事あるいは疑問、努力を、何となく意味づけ納得させてくれて、読んでいてこちらの心持ちも奥深くなってくるのを感じる。 

 

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