世界史の中から考える

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読書日記

2016年09月30日

『世界史の中から考える』 高坂正堯 新潮選書 1100円+税

著者は病に倒れて急逝する、62歳で。
19991年1月から1994年11月まで新潮社の月刊誌「FORESIGHT」に連載していた学術的エッセイで、後に一巻にまとめる予定であったものだ。惜しい学者を早くに無くしたものである。
米ソの冷戦が終わった頃からの彼の思考の軌跡とも読み取れる。
ベルリンの壁が取り払われて、2つの統一ドイツを考える。東西ドイツの統一と、1871年普仏戦争の勝利によりビスマルクはプロイセンを拡大統一した。状況が似ているという。感情ははじめは高揚していても不況に陥り政治体制が整わない。
また、バブル経済についてはオランダのチュウリップ投機やイギリスの南海会社泡沫騒動などで、バブルは繰り返すとしている。
最後のほうに来ると、日本の大失敗を考えている。つまり「支那事変」などと誤ったとらえ方をして中国と戦って収拾がつかないでいる最中に、アメリカと開戦する。日清戦争からの英米への反発が、アジア主義というとらえどころのないナショナリズム、イデオロギーによって悲劇へとつき進んだ。
著者は反戦論を展開しているのではない。人間の美徳と悪習は裏腹であり、あの時ああであればなどと歴史を見ても詮なきことで歴史からは何も学べない。だが、ああであったならと考えてしまうと、実にいいエッセイ集である。
ギボンの『ローマ帝国衰亡史』、1941年11月にハル米国務長官が日本政府に手交した"ハル・ノート"、アダム・スミスの『国富論』、戴季陶の『日本論』、夏目漱石の「現代日本の開花」などなど、著者のあげる本もぜひ読んでみたくなった。
 

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