『春宵十話』

トップ > 日記

読書日記

2019年04月17日

『春宵十話』  岡潔 角川ソフィア文庫 520円+税 

岡潔は数学者である。世界的難問を解き天才といわれた。そして思想家としても多大な影響を残した。
私には数学の世界は皆目分からないが、彼の思想的考えには本質を見極める精神の根底を教えられるところが多々ある。
その特徴は、日本の文化を培ってきたのは自然に根差した「情緒」であるとするところである。戦後急速な西欧化により日本の伝統と叡智が失われ、合理性一辺倒で日本人の顔すら変わってしまったと。そして戦後の教育が日本民族をダメにしてしまっていると。これを著者が語ったのは1963年1月のことで、私が大学生時代の頃、既に現在に起こっている事に警告を鳴らしていたのだ。近頃のこの国のあり様がひどく心配になり、話しかけずにはいられなくなった、と。
宗教にも入門して「智」の違いを究める。宗教と理性の違いを、人の悲しみがわかるというところに留まって活動しておれば理性の世界だが、人が悲しんでいるから自分も悲しいという道をどんどん先へ進むと宗教の世界へ入る、と。
宗教のみならず、自然、文学、絵画、そして、なにより素晴らしい多くの友、知人との交流で、文化とは何かを洞察していく。
著者自身の体験が貴重なものとなっている。その記憶力の凄さ!
 

[前の日へのリンク]← 
→[次の日へのリンク]

NewChibaProject