悦子の談話室

オートバイ泥棒

     
 

暑い夏が続く。
昨日、砂糖を買いに朝外出した。烏と競って採った無花果の甘露煮を作るのに、砂糖が足りなくなったからだ。2回目の煮込みだ。
と、近くの小さな酒屋の前に警察のオートバイが2台駐まっていて、店の奥さんがしょぼくれた顔をしている。いつも親切な人だ。
どうしたのですか、と問うと、「バイクが盗まれちゃって…」と。車庫代わりに使っている物置の鎖は鍵をかけて、バイクも当然鍵はかかっていたのだそうだ。以前、バイクに乗っていた元気な姿をよく見ている。
こちらの背筋も寒くなった。
この奥さん、ご主人が数年前にゲートボールをしていて脳梗塞かで倒れ長らく入院リハビリが続いて、その看病以来見た目も痩せてご自身言っているが物忘れが酷い。アルツハイマーの一種か。前に聞いたと思いますが、と同じ事を何度も聞く。
「こんな事があると、気分が悪いものですから特に元気を出して、大事にしてくださいね」と言うと、「そう気分が悪くてね」と胸のあたりを撫でる。見ていられない。

大昔、「自転車泥棒」というどうにも切ないイタリア映画があった。敗戦後の日本の田舎に育った我が記憶にも同じような切ないものがあり、泣けた。
今日の状況では、生死に関わるやむにやまれずの所業ではあるまい。悪戯としか思われない。こうした悪ふざけで何が生まれるのか。
重い気分に落ち込んでしまう。

(14.08.25)

 
     

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