悦子の談話室

幸せな人

     
 

幸せな人とは、括弧付きである。"幸せな人"
過日近隣の奥さんたちとランチの会に出かけるべく門を出た。
と、近くのお宅の門が開いていて、女性がにこにこしている。距離があるので挨拶せずにいたら引っ込んだ。その家の奥さんに似た人だ。
その家というのは、老夫婦二人住まい。奥さんは痴呆症がすすんでいる。一つ年下のご主人が腰が曲がりながらゴミ出しなど多分全ての面倒を見ている様子だった。「重たいでしょう、持ちましょうか」と言うと、「いや大丈夫」としっかりしたものだった。
我々がランチに出かけた翌日、民生委員からメールが入っていて、あのお宅のご主人が急逝したと介護センターから連絡があったとの事。驚いた。ではあのにこにこしていた人は奥さんだったの、それとも遠くに住む娘さん?!
ともかく私はその家に駆けつけた。奥さんが出てきた。とても元気に陽気だ。「お元気」と問うと「元気よ、でも歳でね」、「ご主人は?」「2、3日前かな死んじゃったかな」、「今どこにいるの」「知らない」、「今は一人?」「娘や息子がいるけど帰ったかな、買い物にいったかな」といった具合。葬儀の予定など問うことは憚れた。
ピーナツをポリポリ食べながら、話は直ぐに自身の父親らしき人の話にすり替わる。実に陽気で悲しみは全く伺えない。私が誰かは分からなそう。一頃は一緒によく立ち話をし、近頃では我が家の電話番号がどこかに書かれているのか間違い電話をよく掛けてきていたのだが。
近所の皆とあれではご主人が大変ね、と心配していた矢先だった。事情を知って心配していた人たちには私から口頭で知らせた。みな唖然だ。近頃は葬儀も内密にという時勢だ。訃報が廻るかどうか。生前親しくしていた人と最後の別れも出来ずに逝くのか。
先に"幸せな人"になってしまうのが勝ちかな。"まだら"では辛いかな。これから彼女はどうなるのかな。近くに住みながらどうもしてあげられない歯がゆさに苦しむ昨今の隣組だ。

(16.04.01)

 

 
     

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