電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

個室・ユニットケア読本』(2003年6月20日)

個室・ユニットケア読本

実践編−特養「風の村」のハードとソフト
特別養護老人ホーム「風の村」著
ミネルヴァ書房 2000円

 介護福祉施設の姿は年々進歩している。筆者が要介護4の九十一歳の親を自宅介護するためいろいろと調べまわった三年前に比べても、すでに大きく変わっているようだ。「自分が住みたい生活の場」として工夫を凝らし模索されてきている。

 「風の村」はそうした個室・ユニットケアを実践する新型特養のモデルケースである。全室個室、そして10人前後のグループをつくり、それぞれを一つの生活単位とし、少人数の家族的な雰囲気の中でケアを行うユニットケア方式を取り入れた施設が新型特養である。

 「風の村」は生活クラブ生協千葉が二000年二月に八街市に開設した。生活クラフ生協千葉は一九九四年にすでに在宅ケア事業「たすけあいネットワーク事業」を開始していて、その貴重な実績の積み重ねがこの「風の村」にも活かされている。

 本書の著者の一人である施設長の秋葉都子さんに、「風の村」の喫茶室アルルカンでお会いした。穏やかなひとで、季節が見わたせる自然に囲まれた風の村のお話しをいろいろ伺った。この喫茶室は入居者はもとより、直接外に開けたドアもあり、近所の人たちも自由に憩える。ボランティアたちが運営していた。風の村全体が地域に開けている。

 生活の場へのこだわり、従来の病院・施設観からの脱却策はいたるところでうかがえる。先ず、建物への厳めしい門構えや塀はいっさいない。以前の施設で外部への徘徊があったひとが、塀も垣根もない風の村のバリアフリーに入居して、却って安心したのか、徘徊がなくなったと聞いた。1階、2階と呼ばず、1丁目、2丁目、3丁目となり、例えば2丁目215号室となる。家具は寝台と洗面台のみ備え付けで、あとは箪笥やテーブル、椅子、額など自分の馴染みの家具を入れられる。カーテンは風の村がリースしているが、57室8リビングすべて異なる。館内一斉放送はなし、ワーカーの制服や名札もなし、就眠時間も起床時間も入居者の自由。炊飯は各リビング毎に、副食類は厨房でということで、パン食、ご飯食、自分の食器で好き好きである。

 こうした福祉介護のあり方を、筆者は10年くらい前に北欧の福祉政策の進んでいるといわれた国々に見学に出かけた。それが、今、日本でも実際に介護に携わって苦労している人々の努力で、少しづつ実現しようとしている。頼もしい限りだ。多くの人が自分が介護されなければならない時を想定している時代なのだから。

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