電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

忠誠の代償』(2004年08月20日)

 ロン・サスキンド著

武井楊一訳

日本経済新聞社

2200 円

 この本は、現ブッシュ政権の発足二年間財務長官を務め、解任されたポール・オニールの協力に基づく、ブッシュ政権の前半 2 年間の動きである。

 「秘密に価値などないよ」というオニールは、毎日の行動記録表や、自分のデスクを通った大統領宛ての覚書や会議の要約など全ての書類一万九 000 もが収められている CD ・ ROM 数枚を財務省の元部下たちから提供され、それを著者に渡した。

 オニールはブッシュ・シニアと親しかった。フォード政権時代にブッシュ・シニアは CIA 長官で、オニールとウォーターゲート事件の処理にあたった。ブッシュ・シニアが大統領になるとオニールに国防長官を要請した。その時オニールはアルコアの CEO になったばかりで断り、旧友のチェイニー現副大統領を推薦して彼が就任した。このチェイニーが今回のオニール解任に一役買った。

 FRB 議長グリーンスパンもオニールと古く親しい仲だ。互いの食堂で交互に朝食を共にしながら、減税の実施策、財政、景気など、頭に入っている膨大な資料と数値の実績で検討する。ブッシュ政権の掲げた大型減税はすでに何の景気刺激策にもならないことが二人には分かりきっているのに、「選挙公約は守る」というブッシュの下では実施しかないジレンマが伝わる。トリガー方式という二人の妙案も通らない。

 オニール財務長官は、カルフォルニア州電力危機の経済的影響解析、そしてニューヨーク大停電の予言ような州境を越えた単純明快な電力網の提案、エンロン破綻処理、京都議定書離脱の経済的解析などで奮闘する。

 財政のみならず、国家安全保障会議の重要メンバーでもある。ブッシュ政権は当初から、フセイン・イラクが標的だった。「何故、どうして」ではなく、「やるといったらやる」ただそれだけで、理由をこじつけ突き進む。大量破壊兵器がまだ見つかっていないと今日報道さる通りである。

 全ての会議でブッシュ大統領は殆ど実の入った発言はせず、質問など知らないといった気の抜けた顔をしている。こんなに質問の出てこない、識者を統制することのできない大統領は初めてだとオニールは早くから気付く。ずばずば「何故」を発言するオニールは次第に疎んじられる。パウエル国務長官も同様。

 ブッシュ大統領は取り巻きの密室に囲われていく。これが「忠誠」なのだ。オニールは自ら辞めるとは決して言わず、あくまで「解任」という形で政権を去る。

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