電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

社外取締役』(2005年06月17日)

 

牛島 信著

幻冬舎 

1500 円+税

 

 社外取締役は以前にもいたが、あまり表立った存在ではなかった。しかしバブルの崩壊、企業不祥事などでコーポレート・ガバナンスの時代となり、新しく委員会等設置会社が商法で定められ、多くの企業が会社建て直しのために社外取締役に重心をおく制度に換えてきている。大物を社外取締役に据え、本来の機能であった経営の取り締まりに当らせ、大物経営者を更迭する企業まででてきている。

 さらに今日では、敵対的 M&A の動きが日本企業でもみられて、ポイズンピルなどといった防衛策もとられ、会社はいったい誰のものなのかという、企業内論理だけでは解決できない、広い見識をもった客観的判断のできる社外取締役に大いなる役割が課せられるようになってきている。

 この小説は、実務としてこうした企業の生々しい動きのただなかに関与する弁護士が書き下ろした企業法律小説で、日本企業のコーホレート・ガバナンスの現実的あり方の一つを見せてくれる。

 都心高層ビル一角に本社を構え、東証一部で好評な輸入食品会社。前身は地方都市にあった缶詰会社だった。石油ショックで会社更生法の適用を受け、そのときコマネズミのように働き会社更生を脱した立役者が 45 歳で社長に就き、本社を東京に移して社名も変え、今日に至っている。

 

 平社員からたたき上げた 23 名の取締役がいても取締役会で誰も発言しない。取締役会で大激論を交わしたいとの社長一人の発意で、日本史専門の私立大学教授を引き抜き、はじめての社外取締役に据え常勤させる。

  

 そんな折、魚缶詰製造部門の輸出品に腐敗品が発生し、社長の対応の悪さが輸入国タンザニア、そして元宗主国英国のマスコミに取り上げられて騒ぎとなり、社長は取締役会で解任に追い込まれる。

 取締役たちの駆け引きが始まり社外取締役は孤軍奮闘を余儀なくさせられ、執行役員制や委員会等設置会社などを検討していく。そして、この社外取締役はスキャンダルにまみれながら、社長の座に就き社名も変える。

  この社外取締役は団塊の世代である。この世代があと少しで定年退職を迎える。

 明治維新で人口の一割が武士という職業をなくした。壊れゆく徳川幕府の切り盛りを無理やり任せられ、日本の社会制度を新しく造り、国際情勢の中で日本がみえていた勝海舟の姿と、この社外取締役の姿を、重ね合わせて読んでみるのもおもしろい。

 この社外取締役は明治維新の研究家との設定なのだから。

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