電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

人生に二度読む本』(2005年04月01日)

城山三郎・平岩外四著

講談社   1429 円

 

 読み返したい本はたくさんある。大体が未熟な若い学生時代に読んだりしていて、それを読み返してみると、こちらの人生の襞に響くものが多々あって、作者の深い思想に気付き、新たな感銘を覚えたりするものだ。人生に二度読むという意は、こころの問題、内面の世界をじっくり問うことができる本ということであろうか。

 ここで取り上げられている本は、 12 冊。『こころ』夏目漱石、『老人と海』ヘミングウェイ、『人間失格』太宰治、『変身』カフカ、『山月記・李陵』中島敦、『車輪の下』ヘッセ、『野火』大岡昇平、『ダブリン市民』ジョイス、『ダロウェイ夫人』ウルフ、『かもめのジョナサン』バック、『間宮林蔵』吉村昭、『ワインズバーグ・オハイオ』アンダソン。

 著者二人がそれぞれ取り上げて読み直し、作者や作品について語り合っている。内容の豊富なこと、解説書としてこの上ないものになっている。

 城山氏は、小説家として多くの取材はもとより、作家同士としての交流体験などを語っている。平岩氏は、読書家として多くを語る。この読書家が、並外れた文学研究家であることが分かる。蔵書は 3 万冊を超えるという。気になった本が日本で手に入らなければ外国の出版元から取り寄せる。そして、読みこなしていく。小説家の城山氏が読書家の平岩氏の解説に、なるほど、その点はわたしは意識しませんでしたと感心している。例えば、中島敦は 33 歳で若死にするのだが、もう少し長生きしていたら 自分の主観であるところの真実と、客観的で現実にある事実というものが消化されず、分かれたまま。自分の主観と客観とが一体になるような作家になっただろう といったあたりでも。

 古い本ばかりが取り上げられてはいる。今日の本は意表をつく、あるいはストーリー展開の速い、刺激の強いものが主流で一過性のものが多いようだ。時代がそれを求め、またそれが時代を作っている。著者らがここでこれら 12 冊を選んだ理由の一つは、そうした現代社会にあって、人が生きていくという基本的で平凡な自分のテーマを、いろいろの視点からゆっくり問うてみましょうといってくれているようだ。

  それには質のいい読書が一番。いい本ではいろいろな世界を生きることができる、読書をしない人は随分損をしていると思うと城山氏。読書は疑問を投げかけてくれ、回答を与えてくれると平岩氏。

  これらの解説をもとに、この 12 冊を早速読み返してみたくなるはずだ。


* ここ3、4日、この書評が多く検索されている。何かで取り上げられたのかしら。
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私は、平岩氏から遠くからだが直接学んでいた。お目にかかればそれはそれは優しく接して下さった。
この書評が出た時も、事前にお断りはしていなかったので、わざわざ会長室に呼んで下さり、驚かれ感謝されて、こちらは
いたく恐縮したことだった。
今でも思い出す、あの温厚で物腰の低い素晴らしい方の思いやりを。  (14.09.09)

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