電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

残り時間には福がある』(2006年08月04日)

桐島洋子著
海竜社 1500円+税

 著者は、編集者、ベトナム戦争従軍記者、執筆などジヤーナリストを経て、素晴らしい自由人としてのライフスタイルを確立している国際人である。

 いわずと知れた元祖未婚の母。2女1男の子も立派な有名人に育て上げ、少子化に逆らって孫6人がいる。

 この力強い自由人としての素質は、戦前のご両親のライフスタイルから受け伝いだもののようだ。現在はこの家族、若い友人たち、海外の友人たちと、林住期をスピリチュアルで行動力豊かに充実させ、楽しんでいる様子が伺える。そして彼女の相変わらずの多様なフットワークが、老後もかなり楽しいものになりそうな、そんな予感を読者に抱かせてくれるのである。

 林住期とは、インド仏教思想の四住期の一つ。人生を四つの季節として棲み分けるそうだ。若葉の春は学業にいそしむ青年の季節で「学生期」。汗だくの夏は仕事に励み家庭を築き働き盛りの壮年の季節で「家住期」。任務が一段落し自然に心身を解き放って人生の収穫を楽しむ秋は「林住期」。枯れ尽くして祈りや瞑想で煩悩を洗い落とす冬は「遊行期」。著者は50歳にして林住期宣言をしている。

 著者はただ人生の収穫期を楽しんでいるのではなく、いわばお裾分けとしてボランティア活動を始めた。以前は金持ちが免罪符を買っているようで嫌いだったが、欧米のそれには人に必要とされ自分の能力を生かせる喜びと感謝の思いがこもっているのを知って、積極的に取り組む。それは、ファンド・レージングという形をとる。資金集めである。

 住に拘る著者はヴァンクーヴァーに「林住庵」を構えて、カナダのライフスタイルの基本であるリデュース(減量)、リユース(再使用)、リサイクル(再活用)の3Rやロハスを実践している。その林住庵で「林住塾」を開いて日本から参加者を招き、彼女のエスコートでヴァンクーヴァーの暮らしを体験してもらい、浮いた資金をさまざまな義捐金として送金する。

  東京の自宅には骨董室がある。世界各地で集めてきた骨董に直に触れるティー・パーティなどといったファンド・レージングもする。

 北米先住民と親しい著者は彼らの古い言い伝えを紹介する。”天は樹木に支えられている。もしも森が滅びたら、世界の屋根である天が崩れ落ち、人間も森と共に滅びる”と。何とも予言的だ。カナダの森林は伐採され、その木材は殆ど日本で消費されている。これは考えさせられる現実だ。

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