電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

日銀券』(2005年01月14日)

幸田真音著
新潮社

 

上・下各 1500

 

 

 日本銀行の最高意思決定機関である政策委員会の動きを、突然副総裁に就任してきた弱冠39 歳の芦川笙子を中心に、審議委員二年になる学者上がりで 61 歳の中井昭夫の思いを通して語る国際マーケット小説である。芦川から「ゲームをしませんか」と謎の誘いを受ける中井である。

 20 年振りで新札が発行された。 1 20 円のコスト。それを 1 万円の価値でいつまで使えるかなど、怖い問題提起がさり気なくされる。金利は限りなくゼロに近く、国民への負担を強いて不良債権を処理している。団塊の世代が一斉に定年を迎える時、膨大な退職金の手当てはあるのか、などなど。

 国際的には、米国の赤字を日本が大量のドル買いで支えている現状や、米国大統領の苦境、ユーロの実力、元の切り上げなど、隠密裏にニューヨークのプラザホテルで開かれる金融国際会議は、 20 年前のプラザ合意の舞台を再現するような設定である。

 2005 4 月のペイオフ全面解禁はこともなく過ぎる。この小説はその少し先まで進む。

 日銀は物価の番人であり、通貨の番人。消費者物価指数を見極め、インフレやデフレをコントロールする。金融機関が保有する手形や債権を買い取って市場に資金を供給する買いオペと、日銀が振り出す手形や保有している国債を金融機関に買わせて市場から資金を吸収する売りオペといった金融調整、いわゆる公開市場操作をする。この小説のもう一つの舞台は、そうした日銀の動きをウォッチして、買い手と売り手の仲介をする短資会社。ところがここ数年の日銀のゼロ金利策と量的緩和策のため、マーケットに活気がなくなり死に体同然というありさま。

 そんなところへ、親米派だったサウジアラビアが、フランスに石油を売り武器を買い入れ、その全てをユーロ建てにしたというニュースが飛び込み、ドルの下落を予感させる。それでも、思ったほどの市場の活況もなく過ぎる。

 そして、満を持して日銀政策決定会合では珍しく激論の末、ようやく中井の議案提出で量的緩和策が解除された。これが何を救ったのか、芦川の言ったゲームとは何だったのか、最後に分かる。

 日本の現状を憂い、新しい 21 世紀のアジアの未来を見つめる作者の目は専門的でしかも温

かい。国際感覚豊かに金融分野を分かり易く説き、問題提起を多く含んでいて、日本のビックバン当時大蔵省の証券取引審議会委員であった評者にも読み応え充分である。

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