行政不況

 中森貴和著
 宝島社新書
 648円+税

 今日の未熟で不手際な政治により、日本経済社会の混乱が極みに達している。
年金記録不明問題、後期高齢者医療制度実施などなど、国民の不満が爆発せずに収っているのが不思議なくらい。暫定税制は30年続き、臨時金利調整法は50年以上続いてきた。

 本著では、これまで生産者保護だった行政が消費者保護に舵取りを変え、一昨年来多発する悪徳商法、耐震偽装事件、食品偽装事件などに対して、消費者保護の観点から法改正を速やかに行ったことを列挙する。「改正消費者契約法」「改正建築基準法」「改正貸金業法」などなど。
  しかし、これらがあまりにも現場を知らず準備不足で早急だったことから規制不況を生み、強い企業が生き残り弱小企業は淘汰されるという二極化をきたしていると詳細なデータを挙げる。

 この二極化はあらゆる業界でおきている。郵政民営化も世界最大の民間銀行を生んだ。が資産運用の八割は国債であり、金融業務でのノウハウ不足や人材不足など課題が大きい。ゼロ金利の中、一五〇〇兆円を超す個人金融資産の奪いあいに、不良債権処理が山場を超え公的資金もようやく完済した銀行とのせめぎ合いが始まっている。ダメージを受けるのは地銀、信用組合など地元の地域金融機関だ。

 著者は、このところのこうした法改正が業界の再編・ガリバー化をも促しているとみる。
  日本の産業基盤は全企業の九九%、全就業者の七〇%を占める中小企業。オーバープレイヤー状態の中、大手企業は株式の持ち合いなどで再び系列化を強めて中小企業には逆風だ。労働市場の七割りが切り捨てられかねない。

 こうした諸問題に対し、政府は将来を見据えた経済再建の政策・システム設計を何ら持っていない。いわゆる政策不況であると指摘する。サブプライムローン問題は奇しくも日本経済の歪みを露呈した。株価は下がり日本売りで、世界経済で一人負けしている。

 経済問題が量から質へと移りつつあるとき、確かなビジョンがなく問題先送りでは、質の向上を果たせないまま衰退せざるを得まい。為政者は完全に当事者能力を失っていると、著者は厳しく憂慮してやまない。

[本棚から一冊]

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