『日本人に生まるる事を喜ぶべし』

井上琢郎著
財界研究所
1500円+税

 題名に、著者の奥深い想いが凝縮されている。 読んでいて、日本人に生まれたことに自信が沸いてくる。

  人類史上稀に見る平和で豊かな社会を築いた日本。が、その理想の社会にありながら、今多くの問題を抱え込む日本。深い洞察力で諸事を見つめ、語りかけるような温かい筆致でしかも力強くこれからのありようを提言している。

 著者の歴史的視点の裏づけ、国際的文化的視野の広さに驚く。古今東西多くの書物の読解に裏づけられている。

  この本は、戦前戦後の激動期を生きた著者自身の、幼時から職務(東電勤務)や退職後趣味(オペラ)を生かした文化活動を通じての貴重な体験談や、内外の書物・先達の話などから、日本人が大切に受け継ぐべき言葉・文化、偉業などを多く引用して示している。

 いい言葉に出会うと、こころが洗われる。『論語』の「人の生くるや直ければなり」。アインシュタイン博士の「我々は神に感謝する。我々に日本という尊い国をつくっておいてくれたことを」。戦艦大和乗員臼淵大尉の「我々は新生日本の礎になるんだ」。マレーシア政治家ノンチック氏の「かつて 日本人は 清らかで美しかった かつて日本人は 親切でこころ豊かだった… 今の日本人が 心配だ 本当に どうなっちまったんだろう」等など。

 危機感募る教育問題について、海外勤務経験者の著者にして言葉の教育は先ず国語が大切であると言い切る。それが果たせてから英語であると。正しい日本語を知ることが礼節の基本。明治4年、岩倉欧米使節団のその礼儀正さが、訪問国で日本の評判を良くした。6歳の津田梅子を預かった米婦人も「ご両親の育て方がよかったからだろうと近所のうわさになっている」と躾の良さを記した。

 日本の前途を想い、この一つだけでもと著者が提案するのが、「礼儀立国」である。かつて日本は美しく礼節があり、それ故に世界から一目おかれた。経済力でも軍事力でもない。今こそ平和を守るために「礼節ある国」に戻そうと。家庭や学校、社会で、礼儀を知るこどもを育てあげようと。今成さねばならない、立国のための基本的具体策である。

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