電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

年金が消える』(2004年5月7日)

榊原英資

中央公論新社

一四〇〇円

 なんともショッキングな題である。著者は、現実問題として日本の公的年金制度は既に破綻していると言明している。

 例えば、厚生年金だけでみてみても、九九年度末現在で、給付債務が確定した分と将来発生する債務をあわせた給付債務総額は、二一四〇兆円に達する。しかし積立金は一七〇兆円しかない。しかもこのうち三割は不良債権で消失しているから実質は一二〇兆円。残る埋合わせは今後の保険料の徴収が一一七〇兆円、保険料値上げの追加徴収が五三〇兆円、国庫負担が二八〇兆円と試算されている数値を挙げる。

 この試算がすんなり実現するはずもなく、さらに国民年金においては未払いの人が四割にも達している現状といわれれば、お寒い限りである。

 どうしてこのような破綻状態になってしまったか。公的年金の保険料は、加入者が払った分、年金として積立てられて将来確実に払い戻されるのではない。

 あたかも税金と同じ扱いで、当面の財政投融資の財源して、道路公団や住宅公団に、高度成長期やバブル経済期に政治の具として無益に膨大に回されたこと。そして、高度成長や構造的インフレが永遠に続くと誤算したこと。少子高齢時代がくるとは読めなかったこと。だから、年金の大盤振る舞いをしたことなど、誤った施策だらけだったこと挙げられている。

 九九年の財政再計画後の試算でみても、現在三五歳で厚生年金に加入している人は、企業負担も入れて六一〇〇万円の保険料を払い込み、受け取る年金給付額は五〇〇〇万円に過ぎない。一方同じ厚生年金制度に入っている現在七五歳の人は、一三〇〇万円の保険料で六八〇〇万円の年金給付が得られている。さらに専業主婦は、保険料を全く納めないで年金が支払われている。

 これらの矛盾が明らかになってきて、現在国会でも年金改革法案が審議されている。が、現閣僚で国民年金保険料を払っていなかった人が三人もいたりして、あまり真摯な審議は期待薄である。

 ではこの破綻をどう救うか。著者は経済同友会の出した抜本改革案を評価する。その主骨子は、@消費税を原資として、一人月七万円の「新基礎年金」を創設、A公的年金は解消というもの。このためには消費税を九 % から十一 % 上乗せする。ただし年金保険料はゼロとなる。移行期の調整は国債発行で賄うなど。なるほど分かり易い。

(* 本書評入稿後、多くの閣僚、国会議員の保険料未払い未加入が続々と発覚し、福田官房長官自身も未納期間が判明。官房長官辞任の事態にまで発展している。)

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