電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

このまま滅ぶな、日本』(2004年09月24日)

櫻井よしこ著

ダイヤモンド社

1400 円+税

  東西冷戦終結から 15 年、国際社会の構図が激しくかわりつつある今日、いつまでもアメリカ追随の無策な日本のままでいいのか、日本の国益優先戦略を主張する著者の批判は痛烈である。

 脅威に対処できる強大な軍事力を持つアメリカと、威圧より誘導を重視するヨーロッパ連合の新しい対立、テロリズム対平和民主主義、そしてアジアでは米中の接近など。こうした動きの中で、日本の自衛隊イラク派遣は、武士の精神をもった日本の努めとして著者は是とする。だが、自衛隊としての体裁のままでの派遣は、戦場では軍とみなされ攻撃されかねない。自衛隊は攻撃を受けてからしか自分たちを守ることはできない。あまりにも危険過ぎる。この機に自衛隊を軍として見直すべきだとする。

 このように、日本の国益を日本らしく戦略的に考えたいにしても、そもそも国内で多くの矛盾、問題点を抱えてしまっているのが現状。先ず第一は教育の崩壊である。ゆとり教育のため、こどもたちに負担をかけてはならないと、たとえば数学ではテストの正解率が低いものからどんどん教科内容を削ってしまった。かつて数学先進国だった日本が、今では先進国中小学校での算数の時間が一番短く年間 150 時間。アメリカは 300 時間、フランスは 250 時間だ。そして、歴史教育は日本について何も教えていないとみる。さらに、大学教育の予算の削減、独立法人化でますます増えた文部省の支配など、国民を滅ぼす教育の実態が指摘されている。

 「自民党をぶっ潰す」とまで豪語した小泉首相の国民を裏切り続ける改革空手形にも、失望を隠さない。道路公団民営化は、結局民営化推進委員会の意見書を骨抜きにした形で取り入れ、族議員に組され、上下分離のまま通説で 6175 億円債務超過、借金でさらに 9342 キロメートルの道路を、国交官僚の思いのままに今後もつくっていくことになってしまった。

 北朝鮮の拉致問題については、国家間の交渉ごとなどとは筋違いと諭す。交渉とは互いに対等の立場で譲り合いの条件を話し合うこと。拉致は譲ることなく現状回復を要求すべきことだと。せっかく作った通称経済制裁法を適用せず、法外な医薬品、食糧とカネで被害者を買い戻すにも似た、日本の戦略なき外交に怒る。

 その他、住民基本台帳ネットワークの恐るべき基本的不備、薬害エイズ事件の不条理な結末など、なぜ日本は真っ当な国家に脱皮できないのか探る。

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