電気新聞「今週の一冊」欄に載せた最近の書籍紹介

株式会社に社会的責任はあるか』(2006年09月08日)

奥村 宏著
岩波書店 2100円+税

 今日、無意識に安易に論議されている「企業の社会的責任(CSR)」論を、著者は専門分野である株式会社論から鋭く問う。

 先ずそもそも企業に社会的責任が果たせるのか、法人とは何か、株式会社とは何か、株式会社は誰のものなのか、責任とは何かといった根本的なことを、オランダ東インド会社やロックフェラー財閥の事例、J.S.ミルの『経済学原理』や大塚久雄の『株式会社発生史論』などから、歴史的学問的国際的かつ事例的に解説する。

 そして問題提起は、かつての大企業の公害問題や不祥事に対する責任のとり方、経団連の企業行動憲章、さらに最近のエンロン事件やライブドア事件などにまで及ぶ。

 経済同友会の2003年企業白書『「市場の進化」と社会的責任経営』によれは、社会的責任として@より良い商品・サービスを提供すること、A法令を遵守し、倫理的行動をとること、B収益をあげ、税金を納めることなどが挙げられているが、これらは社会的責任と何ら関係ない当然のことばかりで、この姿勢は社会的責任という言葉を企業批判への対抗策に用いたに過ぎないと見る。

 チッソ水俣病事件、ミドリ十字薬害エイズ事件、あるいはクボタ・アスベスト肺がん事件などの公害事件、あるいは最近のJR西日本電車転覆事故にしても、あれだけ多大な被害を出したにも係わらず、会社としての責任は問われずに存続している。企業の道義的責任として見舞金・弔慰金が、企業の社会的責任として救済金などが支払われる程度である。バブル経済が崩壊し、銀行の不良債権問題で30兆円にも上る公的資金注入も、銀行自体は責任は問われず国民の血税でそれを負担している。国も責任を問われない。この恐るべき無責任体制が日本の株式会社の特徴だ。

 今日巨大化し社会的影響力の強い会社は、社会のものであると結論する。

 企業が責任をとる体制をつくることが、すなわち企業の社会的責任であると著者は指摘する。

 今日の大株式会社は今危機に直面している。無責任会社から責任ある会社にするために、企業改革をせねばならない時であると。
  持株会社解禁で企業はまた大組織へ逆戻りをはじめたがそれは逆行。第一に、法人としての会社の責任をヒトとしての経営者がとれる規模の体制が望ましい。
  そして自分たちの働いている企業をどのようにしていくか考えることが労働組合の社会的責任であり、従業員は内部告発などにより企業改革を通して社会的責任を果たすのだと強調している。

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