『とめられなかった戦争』

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読書日記

2017年03月01日

『とめられなかった戦争』 加藤陽子 文春文庫 550円+税 

1960年生まれの大学教授の著。
何故戦争を止められなかったのか。
この問いを、私は幼い頃に母に聞いて、答えようもない母を困らせた経験がある。我が家族は北京からの引き揚げ家族である。

この著は、満州事変、支那事変(日中戦争)、太平洋戦争という、20世紀前半の終戦に至るまでのおよそ20年間の日本と世界の不穏な動きの中でどうして戦争を戦い続け泥沼にはまり込んでいったのかを、資料に基づいて分かり易く綴っている。
50年も前の学校での日本史の授業では、近現代史にたどり着こうとするともう学年末になり時間が無くて教わった記憶はあまりない。

1928年昭和天皇の即位大礼、1929年世界恐慌、1931年満州事変、1932年満州国建国宣言、1933年ドイツ・ナチス政権成立、1936年二・二六事件、1937年支那事変、1938年国家総動員法、1939年第二次世界大戦勃発、1940年日独伊三国同盟、1941年太平洋戦争始まる。1943年ガダルカナル撤退、1944年マリアナ沖海戦・サイパン失陥、連合軍ノルマンディー上陸、1945年東京大空襲、ベルリン陥落、広島・長崎に原爆投下、そしてようやくポツダム宣言受諾(無条件降伏)。

日本は戦争を止める機会は幾度もあったが、日清日露戦争の勝利の記憶を引きずり軍部の独走を止められなかった政治の未発達、そして情報管理による国民の意識統制などなどで止められず戦争へと暴走したとある。

著者はここまで淡々と史実を綴っていてるのだが、最後に「帰国まで気の遠くなるような時間のかかった残留婦人、残留孤児などの問題を考えれば、国家の責任を強く追及するおもいで歴史を振り返りたくなる気持ちもわかります。しかし、例えば、自らが分村移民を送り出す村の村長であったらどう行動したか、移民しようとしている家の妻であったら、……関東軍の若い将校であったら………、そのような目で歴史を振り返ってみると、また別の歴史の姿が見えてくると思います。………切れば血の出る関係としてでなく、あえて……自分と遠い時代のような関係として見る感性、これは、未来に生きるための指針を歴史から得よう考える際には必須の知性であると考えています」で終わらせている。
私はこの著者の主張がどうも腑に落ちない。知性は必須である。が、戦争においては市井の民は情報を管理統制されている。その際は判断のしようがない。我が亡母のように。せめても歴史から学ぶためには、切れば血のでる関係に我のこころを置いて、想像力を働かせて、人間としての本意を磨いていきたい。それが止める力に、否、始めさせない力になると考えるのだが、いかに。
現在も十分に不穏な世界にいるのだし、「駆け付け警護」などというおよそおかしな状況が展開しているのだ。 

 

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