『宇宙からの帰還』

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読書日記

2021年11月14日

『宇宙からの帰還』 立花隆 中公文庫 860円+税

最近一般の人でも宇宙に飛び立つことができるようになった。すごい時代だ。
さて、この著書は1981年11月号から82年の1号から4月号、6月から7月号の『中央公論』に連載されたものが文庫化されたものである。何と40年も前に書かれたものである。
1950年代後半から60年代にかけて、米ソは宇宙開発に鎬を削っている時で、ソ連が断然リードしていた。ソ連の宇宙飛行士ガガーリンの「地球は青かった」は、1961年4月にヴォストーク1号で地球を一周し人類初の宇宙飛行をした。
米国はなかなか追いつけずにいたが、ケネディー大統領が「60年代のうちに月に最初の人間を送り込んでみせる」と宣言して国民の支持を受けた。
66年に月着陸を成し遂げた米国は、月からの第一歩テレビ中継を実施、20代半ばの私は職場近くの三田の喫茶店で観た記憶がある。
著者は、何億年かの歴史上初めて地球から飛び放たれた稀な体験を持つ彼らに、その心理的精神的哲学的な変化がなかったか、米国に行き12人の元宇宙飛行士に綿密なインタビューを施して、それを書き連ねた。その関心は、科学者であり技術者でありもと空軍テストパイロットであった宇宙飛行士たちは、心的状況の変化を問われたたことは無かったし、報告もさせられていなかったからである。いわば戦士として、いくつもの博士課程を習得し、仮宇宙でのテスト施設で鍛え抜かれた彼らはサイボーグだけだったのか。否。宇宙での時間は綿密な仕事が組み込まれている。束の間宇宙船から外へ出ての作業で感じ取る漆黒の宇宙、地球という小さな一つのきれいな星を見て、地球に帰還してみて宗教的、哲学的な深みを探るようになっていたことに気づいた。
12人の貴重な話は実に興味深い。知的水準の高度なジャーナリストで相手の驚くような高レベルの問答でも読みやすい構成に仕立てている。40年前の物凄い宇宙への挑戦が垣間見えた。 

 

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