『縁に生きる』

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読書日記

2014年10月10日

『縁に生きる』 足立盛二郎 自費出版

今年古希を迎えるにあたり、9月26日に発行された足立氏の半生記である。
長年のご縁があり頂戴した。各種研究会、委員会、理事会などでご一緒しお世話になり、拙著『これから始まるのはラブストーリー』では、郵政事業庁長官の時にイタビュー形式で郵政事業での介護の話をしていただいた。

足立氏は、鳥取県に生まれ、大学卒業後郵政省に入る。
地方局での現場実務も重ね、貯金局次長、大臣官房人事部長、簡易保険局長を経て、2001年に郵政事業庁長官に就任。
退官後は簡易保険加入者協会理事長、NTTドコモ副社長など務め、日本郵政副社長に就任。
その後、ゆうちょ銀行会長、顧問を経て、2014年3月退任。

公共性と企業性の調和を求めた郵政事業経営の歴史を先頭に立って生きて来られた。
 
東日本大震災が発生した時、私は足立氏との会食の約束をしていた矢先だった。
当然会食は延期し足立氏は仙台の現場対策本部責任者として3月18日、新潟を経由して現場に向う。
しばらくして後、お目にかかった時のお話も感銘深い。

その現地での記述。
現地では、陸前高田局の上に船が乗り上げているなど局や被災者の壊滅状態の救済救援使命に、現場を無視した、ユニバーサルサービスの精神を無視した、民営分社化体制の弊害と混乱が露呈していた、と。
本社同士の正式な許可がでるまで会社間の車輌の貸し借りができなかったり、住民の安否情報、避難者情報が共有できなかったり、郵便局窓口にお客さまからの必死の問い合わせに応えることも出来ていなかった。全てが会社毎に分断化され、局に壁ができていて、お客さまへのサービスが機能しなかった、と。
「ゆうちょの非常払いに連帯保証人が必要、本人自著による疎明が必要などどうしたらいいか、勝手なことをしたら後日検査、監査で咎められないか」と、現場は判断する力を失っている。コンプラ担当副社長の足立氏は「私が全責任をとるから。今は規定規約が想定した事態を超えています。非常時には常識に従えばいいのです」「常識とは何ですか」と追求する声も。
「それは貴方のこれまでの職業的経験と良心にしたがうことです」ともうしあげた、と記されている。

その他、郵政事業に係わる本質の経営、サービス開発の当事者責任者としての回顧が、お人柄をそのまま反映して、たいへんに穏やかな語り口で明快に記されている。
郵政事業を改めて考えてみるためには良い解説書ともなっている。
非売品ではあるが、ぜひ多くの人びとに読んでもらいたい。
 

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